歯を守り未来の健康を育むために

「歯が痛い」「冷たいものがしみる」そのような症状で歯科医院の扉を叩く方は少なくありません。

もちろん、私たちはその痛みや苦痛を一日も早く取り除くために、全力を尽くします。

しかし、私たちの役目は、ただ虫歯を削り、つめることだけではないと考えています。

なぜ虫歯になってしまったのか。

その根本的な原因を探り、治療を終えた歯が、そして他の健康な歯が、二度と虫歯にならないようにするにはどうすれば良いのか。

治療の先にある「未来」までを見据え、患者様一人ひとりの生涯にわたる健康をサポートすること。

それこそが、私たちの真の使命です。

このページでは、当院の虫歯治療に対する考え方と、具体的な治療法について、詳しくお話しさせていただきます。

当院の虫歯治療の考え方

歯を失う原因の多くは、虫歯と歯周病です。

裏を返せば、この二つの病気を適切に管理できれば、ご自身の歯を生涯にわたって守り抜くことも不可能ではありません。

その信念に基づき、当院では以下の点を重視して、虫歯治療に取り組んでいます。

早期発見と適切な介入（MI）

虫歯治療において、一度削ってしまった歯質は二度と元に戻りません。

治療のために歯を削るということは、歯の寿命を少しずつ縮めてしまうことと同義です。

だからこそ、私たちは「MI（ミニマル・インターベンション）」という、歯を削る量を適切に抑える考え方を治療の基本原則としています。

虫歯に侵された部分だけを精密に取り除き、健康な歯質を1ミクロンでも多く残す。

そのために、当院では歯科用の拡大鏡（ルーペ）やマイクロスコープ（歯科用顕微鏡）といった設備を活用します。

「見える」ことの安心感

「今、何をされているのだろう」「歯がどんな状態なのか、よくわからない」

治療中に、このような不安を感じた経験をお持ちの方は多いのではないでしょうか。

歯科治療への恐怖心は、痛みだけでなく、この「分からない」という不安から生まれることも少なくありません。

当院では、患者様の不安を解消するために、説明の「見える化」を徹底しています。

治療に伴う不快感を、できる限り少なく

歯科治療、特に虫歯治療には、「痛み」や「音」といった不快感が伴うイメージが根強くあります。

当院では、それらの身体的・精神的なご負担をできる限り軽減できるよう、様々な配慮をしています。

麻酔注射の前には、まず歯ぐきに表面麻酔のジェルを塗り、針が刺さる瞬間の痛みを和らげます。

注射には、コンピューター制御で麻酔液をゆっくりと一定の速度で注入できる「電動麻酔器」を使用します。

具体的な虫歯の治療法

虫歯の進行度や範囲に応じて、治療法は異なります。

ごく初期の虫歯に対して

歯の表面が少し溶けて白くなっている「C0」の段階であれば、歯を削らずに済む可能性があります。

この段階では、歯の再石灰化を促すことが治療の目標となります。

歯科医院での専門的なクリーニングで歯の表面の汚れを徹底的に除去し、フッ素を塗布して歯質を強化します。

加えて、ご自身の毎日の歯磨きの質を高めることが、何よりも重要になります。

小さな虫歯には「コンポジットレジン充填」

歯の色に近い様々な色調の材料があるため、天然の歯と見分けがつかないほど自然に仕上げることができます。

また、歯と直接接着するため、つめ物と歯の隙間から虫歯が再発するリスクも比較的低い方法です。

ただし、この治療法は、奥歯の広い範囲や、噛む力が強くかかる部分の修復には向かない場合があります。

範囲の広い虫歯には「つめ物・かぶせ物」

コンポジットレジンでは対応できないほど虫歯が広い場合や、歯の神経を治療した後には、歯科技工所で製作する、より強度と精度に優れた「つめ物（インレー）」や「かぶせ物（クラウン）」が必要になります。

保険診療での治療

セラミック治療

当院では、院内でセラミックの修復物を製作できる「セレックシステム」も導入しており、よりスピーディーに質の高い治療をすることも可能です。

どの治療法を選択するかは、患者様のご希望とお口の状態を総合的に判断し、ご相談の上で決定していきます。

虫歯を知る

効果的な治療や予防を行うためには、まず「虫歯」そのものを正しく理解することが大切です。

虫歯ができる仕組み

お口の中には、多くの細菌が常に存在しています。

その中の一種であるミュータンス菌などの虫歯原因菌が、食事に含まれる糖分を栄養にして「酸」を作り出します。

この酸によって、歯の表面の硬いエナメル質から、カルシウムやリンといった成分が溶け出してしまう。

この現象を「脱灰（だっかい）」と呼び、虫歯の始まりとなります。

もちろん、私たちの身体には抵抗する力も備わっています。

唾液には、酸を洗い流したり、酸の働きを弱めたり、さらには溶け出したカルシウムなどを歯の表面に戻して修復する「再石灰化（さいせっかいか）」という重要な働きがあります。

お口の中では、この「脱灰」と「再石灰化」が、食事のたびに繰り返されています。

しかし、間食が多かったり、糖分を多く摂りすぎたり、あるいは歯磨きが不十分だったりすると、再石灰化のスピードが追いつかず、脱灰が進んでしまいます。

その結果、歯に穴が開いてしまい、元に戻らない「虫歯」となるのです。

虫歯の進行段階

虫歯は、その進行度によっていくつかの段階に分けられます。

進行が浅いほど、歯への負担が少ない治療で終えることができます。

段階	症状・状態	特徴
C0：初期の虫歯	歯の表面が白く濁った状態	まだ穴は開いておらず、痛みもありません。この段階であれば、適切な歯磨きやフッ素の利用によって、歯を削らずに再石灰化を促し、健康な状態に戻せる可能性があります。
C1：エナメル質の虫歯	歯の表面のエナメル質が溶け、黒ずんだり、小さな穴が開いたりした状態	この段階でも、痛みを感じることはほとんどありません。
C2：象牙質の虫歯	虫歯がエナメル質の下にある象牙質まで達した状態	象牙質はエナメル質よりも柔らかいため、虫歯の進行が速くなります。冷たいものや甘いものがしみるといった自覚症状が出始めます。
C3：神経まで達した虫歯	虫歯が歯の神経（歯髄）まで達してしまった状態	炎症を起こし、「ズキズキ」とした強い痛みを感じるようになります。神経は激しい痛みを発し、やがて壊死していきます。
C4：歯の根だけが残った状態	歯の大部分が崩壊し、歯の根だけが残った状態	神経は死んで痛みを感じなくなりますが、根の先に膿が溜まり、再び強い痛みや歯ぐきの腫れを引き起こすことがあります。この段階になると、抜歯が必要となる可能性が非常に高くなります。

虫歯治療は、ゴールではありません。

治療を終えたその日から、二度と歯を悪くしないための、新しいスタートです。

私たちは、治療を通じて、患者様の未来の健康を守るお手伝いをしたいと、心から願っています。